5日制―いま学校は

子どもと親の思い


2002年8月3日「しんぶん赤旗」より

高校生

追い立てられるよう


 今年度から全国の公立学校で始まった完全5日制と新しい学習指導要領。授業時間が減り、教育内容が系統性なく削られる一方、文部科学省は「学力向上」を現場に求め、受験も厳しい競争のもとにあります。そうした学校の状況を子どもたちはどう感じているのか、中学・高校生や親の思いを聞きました。

 横浜市の公立高校2年生、明美さん=仮名=はいいます。「土曜日の休みが増えて、最初はいいかなと思ったけど、実際に始まってみると、ゆとりがあるどころか、かえって追い立てられているような気がします」

 明美さんの学校は、「地域で二番目の進学校」といわれています。学校5日制の完全実施にあわせて、土曜日が休みになった分の授業時間を確保するために、これまでの3学期制から、9月末までを前期、10月以降を後期とする2期制に変わりました。

 2期制にすると、定期テストや学期末の行事の回数が減り、授業時間を多く取れるのです。

 これまでは5月下旬だった1学期の中間試験は6月4日からに。7月初めにあった1学期の期末試験はなくなリました。

 そのかわり、夏休みが終わるとすぐ、9月10日から前期の期末試験です。生徒たちは休み中も試験勉強に追われることになります。

 試験までの間が延びた分、出題範囲は広がりました。

 「試験勉強は大変。それに、回数が少ない分、失敗できないから、精神的にもきびしいですね」

 昨年は7月の期末試験のあと夏休みまでは、授業は年前中で終わりでしたが、ことしは夏休み直前まで、午後もびっしり授業です。

 公立で5日制が実施されたにもかかわらず、私立高校では受験対策のため、6日制のままのところが多くなっています。一部のマスコミは「公立は授業時間で私立に完敗」などと報道しました。

 このため、公立の「進学校」は授業時間の確保と受験対策に必死。7時間授業や2期制などに踏み切るところが多くなっています。

 明美さんの学校でも7時間目に「総合的な学習」が入ることもあります。午後4時15分にようやく授業が終わります。

 「授業のすすみ方も早くなった気がします」と明美さんはいいます。とくに苦手な数学は、わからないまま、どんどん進むようになり、宿題も多くなりました。

 先生から「早くしないと時間がない」「終わるかな」という言葉をよく聞くようになりました。

 世界史の先生は「全部やっている時間がないから」と、アメリカの独立戦争から授業を始めました。それでも毎回、1時間の授業中に、先生が黒板を2回も消して書き直すほど猛スピードで進みます。古代史は3年になって選択で世界史をとった場合だけ教えてもらえるといいます。

 「土曜日が休みになって好きなことができる時間が増えました」という明美さん。しかし、かえって学校での授業は「ゆとり」とはほど遠いようです。

(つづく)


2002年8月4日「しんぶん赤旗」より

中学生

授業分からず塾通い


 栃木県足利市の中学2年生、珠江さんは学校が完全5日制になって家でゆっくり過ごせるようになったことがうれしいといいます。本や漫画を読んだり、クッキーをつくったリ、休みを楽しんでいます。

 「だけど、部活の時間が減ってしまって、ショックです」

 珠江さんはバレー部に所属。試合に出られるようになりたいと、練習に頑張っています。ところが5日制になって、いままで毎週土曜日にやれた部活が、第1・第5土曜日、第3日曜日以外はできなくなりました。

 平日は6時間授業の日が週3回。5日制で休みになった土曜日の分が平日に増やされました。

 「去年までは短縮授業で午前だけで終わる日もけっこうあったのに、今年はずっと50分授業。部活の時間が本当に短くなった感じです」

 完全5日制になって、珠江さんが困っていることがもう一つ。

 「授業が進むのが速くて、わからなくなる」ということです。特に数学の授業がわからないといいます。授業中、生徒が質問しても「それくらい自分で考えなさい」といわれ、先生は次に進んでいきます。

 新学習指導要領で数学の内容は削減されましたが、それ以上に時間数の削減が多く、「詰めこみ」がひどくなっているのです。

 学校の授業だけではわからないため珠江さんは塾へ通っています。ふだんは週2回、英語と数学。試験前は週4、5回通い、英・数・国・社・理を教えてもらいます。夜の7時40分から9時40分まで。試験前は10時になることも。部活から帰って急いで食事をとるとすぐに塾です。「塾の方が質問しやすい」といいます。

 好きだった英語が週4時間から3時間にへったこともがっかりしたことの1つです。その一方で選択授業の時間が増えました。

 珠江さんは国語の「基礎」を選択しました。「国語の先生は教科書にない物語を教えてくれたり、方言を教えてくれたりするので、授業が面白そうだと思ったんです」

 ところが選択の授業は毎回、漢字検定の問題を出してテスト。80点以上とらないと合格になりません。まったくの期待外れでした。

 文部科学省は完全5日制の実施を前に「学力のすすめ」というアピールを出しました。学校現場に「学力の向上」を強く迫り、英語検定や漢字検定など成果が具体的に表れるものに子どもを取り組ませるよう求めています。その結果がこんな形で珠江さんの上にふりかかってきているのです。

 一方、珠江さんの母親、知代さん(40)が心配しているのは、末っ子の健二くんの「学力問題」です。

(人物は仮名)(つづく)


2002年8月5日「しんぶん赤旗」より

小学生

勉強は楽しくしたい


 「このままじゃ、勉強が面白くなくなってしまうのではと心配です」と母親の知代さん(40)=栃木県足利市=はいいます。

 上の2人の子どもが小学1年生のとき、宿題はその日に習った文字を使った言葉を探していくことでした。「子どもは、あれもある、これもそうだと、とても楽しみながらやっていました」

 ところが、末っ子の健二君が1年生になった今年は6月の初めに担任から国語と算数のプリントを渡されました。30ずつ問題が書いてあります。そのなかから毎回20問テストで出して、全部できるようになるまでやるというのです。「担任の先生はいま4年生の長男が1年だったときと同じ人なんですが、やり方が全然違うんです」

 しかし、健二君はひらがなの読み書きがほとんどできずにいます。自分の名前だけは入学前に教えてありましたが、それ以外の字はほとんどわかりません。算数も、足し算や引き算は記号の意味がわかるのでできますが、「どちらのかずがおおきいですか」といった問題は字が読めないので、できません。

 健二君のクラスは36人。参観日に見た印象は落ち着きがなく、「一人ひとりにきちんと教える余裕がないのかな」。

 1年生の国語の時間は上の子たちのころに比べて週1時間減。しかし、覚える文字の数は変わらず、短い時間で多くの字を教わることになります。にもかかわらず文部科学省や教育委員会は「学力向上」を強調し、「宿題を出せ」と要求、目に見える「成果」を求めています。いきおい学校は短時間で「成果」を上げようとしがちです。

 小学校4年の長男、勝一君のクラスでは担任が「期末テスト」として50題のテストを出し、96点以上になるまで同じ問題を何回もやらせています。毎日、漢字か計算のドリルが宿題になります。勝一君はいやいややっています。「期末テスト」は10回近く受け、やっと合格しました。

 「家庭でフォローするしかないんでしようか。授業時間が少なくなったなら、教える内容は少なくして、先生も前みたいに子どもがわかって面白いと感じられる勉強をできるようにしてほしい」と知代さんはいいます。

 それでも健二君は楽しそうに学校に通っています。田んぼでオタマジャクシやカブトエビを捕まえるのが得意。みんなから「遊びの天才」といわれています。

 「やっぱり入学前から教えておけばよかったんだろうか」と焦りを感じた知代さん。基礎学力をつけてほしいという思いは切実です。でも今は、長い目で見ていこうと考えています。

 「学校に行けず字を読めなかった人が読めるようになった話を聞いて、詰めこまれるのでなく、自分から勉強しようという気持ちがあってこそ、成長できるんだと気づかされました。そうでなければ『どうしてできないの』と子どもを追い詰めていたかもしれませんね」

(人物は仮名)(おわり)


機能しない場合は、ブラウザの「戻る」ボタンを利用してください。


Copyright(C)石井郁子事務所 2001
本サイト内のテキスト・写真等全ての掲載物の著作権は石井郁子事務所に属します。
リンク希望の方は、お手数ですがメールにてお知らせください。


石井郁子トップページはこちらから