2002年6月2日「しんぶん赤旗」日曜版より
「ゆとり」をうたい文句に完全学校五日制が始まったというのに、学校の教員から、「授業準備や宿題の点検などに充てる時間がとれない」「休日出勤や残業が増えている」といった悲鳴があがっています。そのしわ寄せは、子どもたちにも及んでいます。
村崎直人記者
ことの発端は、政府・文部科学省が昨年、各学校の教職員の人数を算定するさい、「教員が受け持つ授業時間数は、完全学校五日制になっても減らさない」「少人数授業実施のために教員の加配を受けたければ、受け持つ授業時間数を増やしなさい」という基本方針を示したことからでした。
東北地方の町立小学校で教頭をつとめる河上聡さん(47)=仮名=は、この方針にあぜんとしたといいます。
「学校現場の実情を無視した天下の愚策です。せっかく『ゆとり』のなかで『生きる力』をはぐくむという高まいな理想をかかげて始まる新しい学校教育が、このままでは数年もたないうちにめちゃくちゃになってしまう。教育委員会を通して文科省にも見直しを要望しましたが、聞き入れられませんでした」
そして新学期。河上さんが心配した事態が、各地で起きています。
埼玉県内の市立小学校。新学期皐々、二年生を担任する田中恵子さん=仮名=は、一人の子どものお母さんから「五時間目のない木曜日の放課後、勉強の遅れている子どもを残してみてもらえないだろうか」と相談がありました。
けれど、田中さんは、それにこたえられません。木曜日の五時間目、クラスの子どもたちを帰したあと、六年生の算数の授業に入ることになっているからです。
「木曜日は、給食のあと授業のない唯一の日です。遅れがちな子どもの補習をしたり、子どもたちと遊んだりする時間に使いたいのに、いまは、六年生の五時間目に間に合うように、せかして帰しているのが現状です」
文科省の基本方針は、事実上、休みとなる土曜日に教員が受け持っていた授業時間を、平日に受け持つ授業時間に上乗せするというものです。
そのため、教員の勤務時間のなかで、授業を受け持つ時間が増えます。文科省はその増えた時間を、算数・英語など特定教科の授業に複数の教員で入るチーム・ティーチング(T・T)や、子どもを数グループに分けて教える少人数授業に使うように求めました。
文科省は昨年度から五年計画で、少人数授業の導入をはじめています。「しかし、そのための教員の増員は極力抑制したい」。文科省の基本方針は、そうした狙いからです。
別の市立小学校で五年生を担任する坂本淳一さん(52)=仮名=は「文科省は、『ゆとリのなかで確かな学力を』といいながら、じっさい学校現場に押し付けていることは、まったく逆のことです」と怒ります。
前年度は、専科の教員が教える授業時間は、学級担任にとっては「空き時間」でした。
ところが、本年度になって、専科教員が教える理科と音楽の授業のときも、坂本さんはT・T授業に入ることになり、「空き時間」はまったくありません。
「『空き時間」には、一クラス四十人近い子どもの宿題の点検やテストの採点をしたリ、次の授業を準備するために使ってきました。『空き時間』がなくなり、給食時問や休み時間を削って、そうした仕事をしています。それでも間に合わないので残業や、平日や休日に自宅に持ち帰っての仕事が増えています」
坂本さんは給食時間を使って、子どもたちに本を読んであげていました。しかし、いまは、その時間すらとれません。
漢字の書き取りノートも、その日の帰りの会までに全員分をみて返すことができなくなり、一日八人分ずつにわけて点検することにしました。
「T・T授業だって、お互いに忙しすぎて、十分な打ち合わせができず、ぷっつけ本番の状態です。教員にいっそうの多忙化を強いるなかで、学校の教育力がどんどん後退している」と、坂本さんは心配します。
この問題について、日本共産党の石井郁子衆院議員(四月二十四日)と林紀子参院議員(五月二十三日)は、国会で相次いで取り上げました。
両議員の追及で、矢野重典初等中等教育局長から、文科省の方針は「教員の持ち時間数を増やせという趣旨ではなく、強制ではない」「念のためチェックする」との答弁を引き出しました。また、「一時間の授業には一時間の準備が必要」との認識も認めさせました。
千葉大学の三輪定宣教授(教育行政学)は「一時間の授業に一時間の準備時間が必要と文科省が認めたことは、重要です。休日出勤や残業をしないかぎり、十分な授業準備ができない現状があるわけですから、文科省は実態を正確に調査し、是正する責任があります」と指摘します。
三輪さんによると、欧米諸国では一クラスの児童・生徒数は三十人以下で、教員一人あたリの授業時間数も通常週十五〜十六時間程度です。
ところが、日本は「四十人学級」であるうえ、学校の教員のうち、職務として教育活動をになう「教諭」一人の授業時間数は、週あたリ小学校約二十三時間、中学校約十七時間(道徳の時間を含む)で、それらの軽減は大きな課題です。
三輪さんはいいます。
「問題の背景には、歴代政府・文科省が、少人数学級や教職員の抜本的な増員など必要な教育条件の整備を怠ってきた政策の誤りがあります。国の政策を転換させて、学校に、子どもたちのために豊かにゆったりと使う時間を保障させていく運動が必要です」


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