2002年5月11日「しんぶん赤旗」より

科学を探求する楽しさを
学べる学校教育にしたい

理科カリキュラムを考える会 世話人代表
滝川洋二さんに聞く


 文部科学省の新学習指導要領への批判とあわせ、学校現場の知恵を集めて独自のカリキュラムづくりにとりくむ動きが広がっています。そのひとつ「理科カリキュラムを考える世話人代表の滝川洋二さん(国際基督教大学高校教論)に聞きました。(西沢亨子記者)

――四月の新学期から小・中学校で適用されている新学習指導要領を批判してますね。

新指導要領は

滝川 理科の授業時間は一九七七年以降、指導要領の改定ごとに減ってきました。八九年の改定では、小学校一、二年の理科と社会科をなくし生活科にしました。授業時間が減ったのに教える内容は減らず、ものすごく大変になりました。実験の数が減りましたね。
 今回、さらに授業時間数が減った。学ぶ内容も減っていますが、時間数も減っているので、ゆとりなんてありません。
 おまけに内容の削り方が合理性を欠さます。たとえばこれまでは中学で、「仕事」という考え方を学び、それをもとに「エネルギー」を学びました。物体の持つエネルギーの量は、物体が他の物体になしうる「仕事量」で測られます。今回、「仕事」は高校へ先送りになり、中学で教えません。「仕事」の概念抜きに「エネルギー」を教えるのは難しい。時間数も限られ、「覚えろ」とならざるをえないのです。

――”理科離れ”が問題になっていますが。

”理科離れ”

滝川 細切れにいろんなことがでてきて、受験があるから、暗記で詰めこむ。面白いはずがないです。現場の意見や批判の届かないところで国がカリキュラムをつくり、学習指導要領として学校現場を縛ってきました。指導要領に沿って教科書がつくられ、教科書に載っていない実験をやるのも難しい状況です。
 ”理科嫌い”は昔からありましたが、いまは学習指導要領によって、理科を好きになるチャンスを奪われているといえます。創造性というのは、もともと能力ある生徒だけが発揮するのではありません。だれでも意欲を持
てば、創造的になっていくものです。
 中学で学ぶ内容が高校に先送りされているのに、高校では「個性重視」の名のもとに選択科目が広がり、物理をまったく勉強しない、医学部に進むのに生物を学ばない、などが起きています。どの子も学ぶ共通の教育が、国民的な科学の基礎教養をカバーしていない。
 「少数のエリートがいればいい」という考えで、文部省が八○年代に、市民全体に高いレベルの科学教育をするのを放棄した結果だと思います。

イギリスでは

 イギリスは逆です。九九年九月から一年間の留学で、イギリスの公・私立校の多くの授業を見て、衝撃を受けました。

――逆とは。

滝川 国民全体に科学的な素養、探求能力をつける方向に乗り出しているのです。
 理科では、実験がほぼ毎回あり、生徒に話させること、考えさせることが大事にされています。
 ある中学では、エネルギーの学習で風車の羽根を作る宿題が出ました。授業で、作ってきた風車を扇風機で回し、つなげた発電機で発電量を競うのです。よく回るほど、発電量が大きくなります。一クラス十六人で、全員が、どんな工夫をしたか発表し、どう改良したらもっとよく回るか話しあっていました。
 義務教育の最後の二年間では、自分で実験計画を立て、装置を組みたて、実験結果をまとめリポートを書きます。

――独自カリキュラムづくりで目指すのは?

分かりやすく

滝川 日本の先生たちには、魅力ある授業づくりを研究してきた実績があります。独自カリキュラムづくりにとりくんできた団体もあります。現場の知恵を集めれば、面白く合理的なカリキュラムづくりが可能です。
 現場の動きを広げ、国が教育内容を強く統制・管理するやり方を変えたいのです。各地域で独自のカリキュラムをつくり、公開、交流していく。すぐれた内容が取り入れられ、よりよいものができていくと思います。文科省の学習指導要領は、一つの指標という位置付けにすべきです。
 「理科カリキュラムを考える会」では、全国でいくつかの教員のグループが、分かりやすく、子どもたちが意欲的になれるカリキュラムをと、取り組んでいます。二○○六年までに、いくつかのカリキュラムをつくるのが当面の目標です。


たきがわ・ようじ
1949年生まれ。埼玉大卒。東京学芸大大学院修士(理科教育)、国際基督教大大学院博士(教育学)課程を終了後、物理教育実践検討サークル・ガリレオ工房を主宰。ガリレオ工房は今年3月、吉川英治文化賞受賞。


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