2002年3月6日「しんぶん赤旗」より

どうなる 学力向上フロンティアスクール

ランクづけされる?「遅れた」子は…

現場に不安、合意のない指定


 文部科学省は四月から、「学力向上フロンティア事業」と銘打って、各都道府県で十八校、全国で八百五十校程度の小・中学校を「学力向上フロンティアスクール」に指定します。どういうものなのでしょうか。(西沢亨子記者)

 フロンティア(開拓の最前線)校には一校あたり一人の教員を増員し、習熟度別指導をすすめます。実際の授業を通じ、習熟度別指導のための教材、指導方法などを研究開発するのが目的です。

 指定校は、都道府県教育委員会が選びます。文科省は、新学期まで一カ月半しかない二月十四日になって、県教委に指定校選びの要項を送りました。県教委は三月八日までに指定校を文科省に提出します。

すべての学校に広げる計画も

 県ごとに、教育委員会や校長からなる推進協議会をつくり、公開授業などもして「成果」を報告書にまとめます。同事業は三年間で終わり、その後は得られたノウハウをすべての学校に広げる計画です。

 文科省初中局教育課程課の担当者は「『習熟度』というのは、知識や技能をどの程度、身につけているかという一般的な意味だ。どの学年、教科で、どのぐらいの期間、どんなやり方をするかは各学校の判断による。一つの教室に二人の先生が入り、一人が遅れがちな子をみるのも習熟度別指導に含まれる」といいます。

 これまでも公立の小中学校で、学力保障のために、子どもの到達度に応じた学習を子どもの選択希望を尊重して取り入れ、子や親に好評な場合があります。遅れがちな子どもをていねいに指導するなど、学校の現状に応じ、すべての子の学力向上を図る多様なとりくみは必要です。

 しかし、文科省のねらいは、別なところにあります。同省はフロンティア事業の目的について「新学習指導要領の趣旨の実現」、「行き過ぎた平等主義による弊害を排」することだと説明しています。

 四月から実施される新指導要領のもとになった教育課程審議会答申をまとめた三浦朱門前会長は、同答申について「戦後五十年、落ちこぼれの底辺を上げることにばかり注いできた労力を、できる者を限りなく伸ばすことに振り向ける」と話しています(斎藤貴男著『機会不平等』)。

基礎的学力の問題は後景に

 文科省は、同相の「学びのすすめ」アピールで「学習指導要領は最低基準であり、理解の進んでいる子どもは、発展的な学習で力をより伸ばす」ことを重点にすえ、「発展的な学習」のための教材開発などをすすめる方針です。その一方、すべての子どもに基礎的学力をつける問題については「繰り返し学習」をいうだけで、後景に追いやっています。

 小学二年生の子を持つ東京・小金井市の花岡好枝さん(38)は、フロンティア校や新学習指導要領に不安を感じ、周りに呼びかけて一月に学習会を開きました。五十人が参加し、関心の高さをうかがわせます。「個に応じた指導といえば言葉はいいが、小学生のうちからランクづけして、できない子はそんなに勉強しなくていいという感じ」と花岡さん。東京・小平市の母親(42)は「先生が研究授業などに振り回されて忙しくなるだけ。親の同意もなく、指定校を決めないでほしい」といいます。

 埼玉県川越市の小学校教師、小川修一さん(55)は「きめ細かい指導というなら、少人数授業、少人数学級でもいいはず。習熟度別というタガをはめず、現場に任せるべきだ。指定校では、子どもの立場に立った対応を求めたい」といいます。


効かないこう薬をはっている

梅原利夫・和光大教授

 教員の配置が少ないなかで学校現場が「発展的」「補充的」「平均的」な学習にそれぞれ対応することは、とてもできないでしょう。どこかに力を入れざるを得ませんが、“できる子”だけに力を入れることや学力格差を広げることへの国民の反発は強く、多くの教師もそれを望んでいません。

 結局、学力向上フロンティア事業は、子どもの格差拡大、つまり学習の複線化という文科省の狙いからしても中途半端です。公教育への費用を削ったまま、競争と管理は徹底するという従来の路線を変えずに、なんとか効果をあげようとして、対症療法的に効かないこう薬をはっている印象です。

 大本の路線を変えること、学校現場で子どもの側に立って努力することの両方が必要です。文科相は習熟度別指導の実施状況を調査、公表し、「特色ある学校づくり」に役立てるといいます。教育条件を整えずに、実施調査に名を借りて現場を縛ることは許されません。

多様な子がともに学ぶことが大事

佐藤学・東大教授

 「習熟度別指導」は、一九六〇〜七〇年代に米国など各国で熱心に実験・研究が行われた結果、成果がなく、いまでは廃れたものです。いまは、「習熟度別指導による個に応じた指導」、学習の個別化ではなく、多様な能力や興味を持つ子が一緒に学びあうことが、すすめられています。

 「基礎基本の徹底」が強調されていますが、漢字や計算などは反復ドリルのくり返し以上に、使う、触れる機会を増やすことで経験を通じて習得することが効果的です。しかも、学力は周りから引き上げられて形成されるもので、分からなくてもとりあえずやってみることで理解がすすみます。

 限られた数の教師での「習熟度別指導」では、低学力の子を低学力のまま押しとどめる危険さえあります。教師の数が増えなければ、仕事が煩雑になるだけで、かえって指導に困難が生じます。


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