衆院 本会議 2006年5月16日
○石井郁子君 私は、日本共産党を代表して、教育基本法案について総理並びに文部科学大臣に質問いたします。(拍手)
教育基本法は、憲法の理想を実現するという新しい教育の理念を示して、戦後の平和な民主的社会の建設に向けた取り組み、教育を受ける権利と子供の人間的発達の保障に大きな役割を果たしてきました。今、なぜこの教育基本法を変えるのでしょうか。現行法にいかなる問題があるのか。法案提出の根拠が全く示されていません。教育基本法のどこが時代の要請にこたえられなくなっているのか、明確にすべきです。総理の答弁を求めます。
今、子供の非行や学校の荒れ、学力の問題、高い学費など、子供と教育をめぐるさまざまな問題を解決することを国民は願っています。これらの原因は教育基本法にあるのではなく、歴代政府が基本法の民主的理念を棚上げにして、それに逆行する競争と管理の教育を押しつけてきたからにほかなりません。今日正すべきは、こうした教育基本法に反した教育政策と教育行政であり、基本法ではありません。ライブドア問題や耐震偽装問題などありとあらゆる問題を教育基本法のせいにし、改定の口実にするなどもってのほかと言わなければなりません。総理の見解を求めます。
ところが、憲法改悪を目指す自民党政府は、教育基本法制定直後から基本法改悪に乗り出し、最近では、二〇〇〇年の教育改革国民会議、続いて中央教育審議会を舞台に、また二〇〇三年五月からは自民・公明党の教育基本法に関する検討会で、法案の一字一句が検討されてきました。ごく少数の与党議員による徹底した密室の審議が三年間にわたって行われてきたのです。残りわずかな会期末にこのような重大法案を提出すること自体問題ですが、徹底審議のため、与党検討会及び協議会の会議録を国会に提出すべきです。総理の答弁を求めます。
次に、法案の内容についてです。
法案の最大の問題は、これまでの子供たち一人一人の人格の完成を目指す教育から国策に従う人間をつくる教育へと、教育の目的を百八十度転換させようとしていることです。
法案は、新たに第二条「教育の目標」をつくりました。国を愛する態度など二十に及ぶ徳目を列挙し、その目標達成を義務づけようとしています。法律の中に「教育の目標」として詳細な徳目を書き込み、学校で具体的な態度が評価されたら、どうでしょう。時々の政府によって特定の価値観が強制され、子供のやわらかい心が政府の特定の鋳型にはめられることになってしまいます。目標がどれだけ達成されたのか評価するのでしょうか。評価を行えば、憲法十九条が保障した思想、良心、内心の自由が侵害されるのは明らかではないでしょうか。総理並びに文部科学大臣の答弁を求めます。
日の丸・君が代のように、強制しないと国会で答弁していながら、東京都では強制による処分者が多く出されています。生徒の内心の自由まで侵されています。内心の自由の侵害は絶対許さないと断言できるのか、総理並びに文部科学大臣の答弁を求めます。
日本共産党は、民主的な市民道徳を培うための教育の大切さを一貫して掲げ、他国を敵視したり他民族を蔑視するのではなく、真の愛国心と諸民族友好の精神を培うことも重要だとしてきました。その内容は憲法と教育基本法からおのずと導かれ、一人一人の人格の完成を目指す教育の自主的な営みの中でこそ培われるものです。市民道徳は、法律によって義務づけられ強制されるべきものでは決してありません。
教育とは人間の内面的価値に深くかかわる文化的営みです。その内容を法律で規定したり国家が関与したりすることは最大限抑制すべきなのです。その抑制を取り払い、国家が目標達成を強いることは、戦前戦中、教育勅語の十二の徳目を子供たちに植えつけ戦争へと追いやった、その過ちを繰り返すことではありませんか。総理の答弁を求めます。(拍手)
また、法案は、教育の目的を達成するために、教育に対する政府の権力統制、支配を無制限に拡大しようとしていますが、これも重大問題です。
現行教育基本法は、その第十条で「教育は、不当な支配に服することなく、国民全体に対し直接に責任を負つて」と、国家権力による教育内容への不当な支配を厳しく禁止しています。教育基本法作成当事者たちが書いた「教育基本法の解説」によれば、教育諸条件の整備確立というのは、教育行政の特殊性からして、それは教育内容に介入すべきものではなく、教育の外にあって、教育を守り育てるための諸条件を整えることにその目標を置くべきだというのであると述べられています。
ところが、提出された法案は、この教育諸条件の整備を削除し、「国民全体に対し直接に責任を負つて」や、「教員は、全体の奉仕者」という規定も削除しています。そして、教育は「この法律及び他の法律の定めるところにより」行うとされ、教育振興基本計画で教育内容を決め、実施し、評価することができるとしています。これでは国が法律で命ずるとおりの教育を行えということになる、政府が決めた計画どおり実施せよということではありませんか。これこそ、教育の自主性、自律性、自由を尊重するという憲法の民主的原理を根本からじゅうりんし、政府が教育内容のすべてを握るという最悪の教育統制そのものと言わなければなりません。総理の見解を伺います。
中教審答申は、この教育振興基本計画のトップに全国学力テストを挙げ、政府は来年度実施しようとしています。全国一斉学力テストは一九六一年から六四年にかけて実施され、学校教育に深刻な困難をもたらし、国民的批判の中で中止されたものです。それを今日復活したら、全国の学校と児童生徒を巻き込んだ激烈な競争教育にならざるを得ません。この無謀はやめるべきですが、総理の答弁を求めます。
今回、教育基本法をあえて改定し、国を愛する態度を書き込もうとするのは、憲法九条を変え、海外で戦争する国にしようとする動きと一体のものです。愛国心とは、海外で戦争する国に忠誠を誓えということになるのではないでしょうか。また、政府や財界は、教育を競争本位にして、子供を早い時期から負け組、勝ち組に分け、弱肉強食の経済社会に順応する人づくりを進めています。教育基本法の改定によって押しつけられるのは、こうした二つの国策に従う人間づくりではありませんか。総理の本音を伺います。
憲法と一体の教育基本法は、日本が引き起こした侵略戦争によって多大の犠牲を生み出した痛苦の反省に立って、平和、人権尊重、民主主義という憲法の理想の実現を図るという決意のもとに制定されたのです。日本共産党は、教育基本法の改悪は断じて許しません。教育基本法を守り抜き、この二十一世紀に生かすことを国民の皆さんにお誓いし、私の質問を終わります。(拍手)
〔内閣総理大臣小泉純一郎君登壇〕